医療特集 糖尿病にならないために ~糖尿病予備軍である境界型糖尿病とは?~

内科部長 岡 玲子

 糖尿病の一歩手前である境界型糖尿病は、自覚症状がなく、知らぬ間に糖尿病に進行してしまうことがあります。境界型糖尿病の段階であれば血糖値を正常に戻すことも可能です。手遅れになる前に、生活習慣を見直してみませんか?

糖尿病とは?

 糖尿病とは、すい臓で生成・分泌される、血糖を含む代謝調整を行うインスリンの作用不足により慢性的に血糖値が高い状態になる病気です。日本人糖尿病患者のうち95%以上が2型糖尿病で、遺伝的要因、過食、運動不足、肥満、ストレスなどの環境因子及び加齢が加わり発症します。慢性的に続く高血糖や代謝異常は、網膜症、腎症、神経障害の血管症、全身の動脈硬化などの発症リスクがあります

境界型糖尿病とは?

 境界型糖尿病(以下、境界型)とは、血糖値が正常値よりは高いものの、糖尿病と診断されるほど血糖値が上がっていない状態のことをいいます。具体的には、空腹時血糖値※1が110~125mg/dl、または75g のブドウ糖入りジュースを飲む検査(75gOGTT)で2時間後の血糖値が140~199mg/dlの場合、境界型と診断されます。
血糖値が上がり始めているので、境界型と診断された方は正常の人に比べて糖尿病へと進展しやすいといわれています。
 また、血管の病気が既に始まっている可能性があります。特に食後の血糖値が高いパターンの境界型は、動脈硬化がおこりやすいほか、正常の人の約2倍、血管の病気により亡くなりやすいことが示されています。
※1前日の夕食から10時間以上、水以外摂取していない状態での血糖値

境界型と診断されたら…

 すみやかに専門医へ相談しましょう。境界型と診断された方は、血圧やコレステロール、尿酸値などの異常もあることが多いため、集約的に管理することが重要です。検査結果で異常が見られたにもかかわらず、そのまま放置することだけは無いようにしましょう。
 やけにのどが渇く、尿量が増えた、だるい、体重が不自然に減っていくなどの症状は血糖値がかなり高くなった時に出現する症状です。

生活習慣を見直しましょう

 血糖値が上がる原因は遺伝的なものや加齢など様々ですが、生活習慣を変えることで改善効果が期待できます。
 血糖値を上昇させる要因の一つに「糖質のとりすぎ」があります。糖質とは、炭水化物から食物繊維を除いたものの総称で、砂糖やでんぷんなど、体のエネルギー源となる栄養素です。一日の糖質摂取量を130g以内におさめることを目標にごはんの量を減らし、肉や魚、大豆製品などのたんぱく源をメインにして、野菜をたくさん食べるようにしましょう。甘味は低糖質の甘味料を使い、1食の糖質量を超えない範囲でデザートもお酒も楽しみながら、食生活を改善していきましょう。(※次ページの図参照)
 肥満になると血糖を下げるホルモンであるインスリンの働きが鈍り、血糖値が上がりやすくなります。脂肪、特に内臓脂肪を減らして、ブドウ糖の燃える場所である筋肉を増やすことが重要です。
 筋力トレーニングやウォーキングなどを行うと効果が出やすいですが、本格的な運動が出来なくても、ちょっとした階数ならエレベーターは使わない、片付けやゴミ出しなどの家事をすることでエネルギー消費量は増えていきます。細切れでも体を動かす時間を増やし、座ったり、寝そべったりする時間は減らしましょう。
 タバコを吸う人は、ニコチンがインスリンの効果を効きにくくしたり、副腎髄質ホルモンを分泌して血糖値を上げたりするため、禁煙をすることも大事です。

おわりに

 境界型と診断された時にどのように向き合うかがとても重要です。境界型と診断されたこの機会に生活習慣などを見直し、糖尿病にならないよう予防していくことが肝心です。
 当院では、内科で診察や検査を受けることが可能です。不安があればご相談ください。

監修:岡 玲子
専門 糖尿病
資格 日本内科学会 認定内科医/日本内科学会 総合内科専門医/日本糖尿病学会 糖尿病専門医

参考文献/山田悟著「北里研究所病院Dr.山田流「糖質制限」料理教室」(株式会社主婦と生活者:2016)、日本糖尿病学会編・著「糖尿病治療ガイドライン2016」(南江堂:2016)、「糖尿病治療ガイド 2020-2021」(文光堂:2020)、日本糖尿病学会「科学的根拠に基づく糖尿病診療ガイドライン 2013 第3号」(南光堂:2014)、厚生労働省「健康づくりのための身体活動基準 2013」